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▶ 貸付金の回収方法|返済されない貸付金を回収する手順を弁護士が解説
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3年にわたり毎月末日に全額が振り込まれていた代金が、先月は5日遅れ、今月は半額のみの入金で、残額は翌月にしてほしいという連絡が担当者から電話で入りました。訪ねてみると経理の責任者が退職しており、決算書の提出を求めても来期にしてほしいと返されます。出荷を止めれば自社の売上が落ち、続ければ未回収の残高が積み上がる。このようなご相談を数多くお受けします。
取引先の資金の状況は、外からは見えません。見えるのは、入金の日、金額、連絡の取り方、担当者の交代といった、取引の表面に現れる変化だけです。これらの変化は、資金が尽きる数か月前から現れます。逆に申しますと、法的な手続を検討しなければならない段階に至ったときには、既に他の債権者が動き終わっています。
結論から申し上げます。取引先の資金繰りの悪化に対して債権者が採ることのできる手当ては、相手方が支払不能に陥る前と後とで効力がまったく異なりますので、兆候をつかんだ時点で直ちに着手しなければ、後から取った担保も相殺も覆されます。破産法第162条第1項は、支払不能になった後にされた既存の債務についての担保の供与を否認の対象と定めています。以下、順にご説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
相手方の状態によって採るべき手当てがまったく変わりますので、次のとおり切り分けます。
- 倒産手続が開始する前の段階で、債権者として自衛する場面……本記事
- 既に財産が他へ移された後に、その処分を取り消す場面……債務者が財産を他へ移した場合の詐害行為取消権の行使
- これから貸し付けるにあたり、保証及び担保を設計する場面……貸付けに際して徴求する保証及び担保の設計と回収の場面での効き方
- 返済されない貸付金を回収する手順の全体……貸付金の回収方法|返済されない貸付金を回収する手順を弁護士が解説
支払が遅れる前に、必ず前触れがあります
前触れは、支払の遅れそのものよりも先に現れます。第一に、決済の方法を変えてほしいという申入れです。振込を手形に、月末を翌月末に、一括を分割にという要請は、手元の資金が不足していることの直接の表れです。第二に、資料の提出が止まることです。毎期提出されていた決算書が出なくなり、試算表の提出を求めても応じない状態は、数字を見せられない事情があることを意味します。
第三に、人の動きです。経理の責任者、財務の担当役員、顧問税理士が短期間に交代した場合には、資金の状況を知る者が離れたと考えます。第四に、少額の請求について不自然な値引きや相殺の申出が繰り返されることです。支払額を減らすための口実として、過去の納品の瑕疵が突然主張されることがあります。第五に、注文の急な増加です。従来の3倍の発注が前触れもなく入ったときには、与信を拡大する前に資金の裏付けを確認します。
兆候をつかんだ時点で確認する資料
最初に取得すべきは、法務局で誰でも取得できる資料です。商業登記事項証明書によって、本店の移転、商号の変更、目的の追加、役員の大量の退任、資本金の減少を確認します。不動産の登記事項証明書では、新たな抵当権又は根抵当権が設定されていないか、その順位と極度額はいくらか、所有権が第三者に移転していないかを確認します。設定の日付が直近であれば、他の債権者が既に動いています。
見落とされやすいのが、動産譲渡登記及び債権譲渡登記の概要記録事項証明書です。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条第1項は、法人が動産を譲渡した場合において動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について引渡しがあったものとみなすと定めています。在庫や売掛金が既に他の債権者に譲渡担保として供されていれば、この登記に現れます。
自社の側では、当該取引先ごとの入金の実績表を、日付と金額の単位で3年分作成してください。遅れが始まった月が特定できれば、後に述べる支払不能の時期を主張する際の資料となります。
取引の条件を変更する場合の限界
債権の残高が増えることを防ぐ最も確実な方法は、取引の条件を変えることです。具体的には、掛売りから前払又は現金決済への変更、与信枠の引下げ、出荷の単位の縮小です。民法第555条は、売買が当事者の一方が財産権を移転することを約し、相手方が代金を支払うことを約することによって効力を生ずると定めており、新たな注文を受けるかどうかは本来自由です。
もっとも、限界があります。基本契約書において一定期間の継続的な供給が約されている場合、正当な理由なく一方的に供給を停止すれば、こちらが債務不履行の責任を負います。契約書の解除条項、有効期間、更新の定め、そして予告期間を先に確認してください。安全な進め方は、変更の理由を支払の遅延という客観的な事実に限定し、書面で通知し、遅延が解消した場合には従前の条件に戻す旨を明記することです。
担保又は保証を後から徴求することができるか
徴求すること自体は可能です。問題は、それが後に覆されるかどうかです。破産法第162条第1項第1号は、既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にしたものは、債権者がその行為の当時に支払不能であったこと等を知っていた場合に限り否認することができると定めています。同項第2号は、破産者の義務に属しない行為であって支払不能になる前30日以内にされたものを掲げています。
したがって、既存の売掛金の担保として不動産に抵当権の設定を受けても、相手方が既に支払不能であり、こちらがそれを知っていたのであれば、破産手続の中で効力を失います。支払を待つ代わりに担保を差し入れさせるという交渉は、この意味で脆弱です。
これに対し、新たな与信と引換えに同時に担保を取得する場合は、財産の減少を伴わない同時交換的な行為ですので、否認の対象となりにくい構造です。実務上は、既存の残高については分割弁済の合意にとどめ、これから出荷する分について前払又は担保を条件とする組み方が採られます。代表者個人の保証を求める場合も同じで、新規の取引を条件として締結する方が安定します。
相殺の予約及び期限の利益の喪失の定めの効き方
相手方に対して自社も買掛金等の債務を負っている場合、相殺は最も確実な回収の手段です。民法第505条第1項は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者はその対当額について相殺によってその債務を免れることができると定めています。相手方の債務の弁済期が未到来であっても、期限の利益の喪失の定めを置いておけば、これを喪失させたうえで相殺することができます。
民法第137条は、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、担保を滅失させ、損傷させ、若しくは減少させたとき、又は担保を供する義務を負う場合にこれを供しないときには、債務者が期限の利益を主張することができないと定めています。契約書には、これに加えて、支払の停止、手形の不渡り、第三者からの差押え、租税の滞納処分といった事由を約定として置きます。
注意すべきは、倒産手続が始まった後の制限です。破産法第71条第1項は、破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき、及び支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であってその負担の当時に支払の停止があったことを知っていたとき等には、相殺をすることができないと定めています。民事再生法第93条第1項も同旨です。相手方の危機を知った後に、相殺の材料を作る目的で新たに仕入れを行う方法は、この規定により封じられます。また、民法第511条第1項は、差押えを受けた債権の第三債務者は差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができないと定めています。相殺は、危機が表面化する前から存在した債権によってこそ効力を持ちます。
商品の引揚げが問題とされる場合
納品済みの商品を引き揚げる行為は、実務上たびたび行われますが、三つの側面で危険を伴います。第一に、相手方の同意なく倉庫から搬出すれば、財産権の侵害となり、刑事上の問題も生じます。引揚げは、必ず書面による合意に基づいて行ってください。
第二に、合意があっても、代物弁済としての性質を持つ場合には、既存の債務の消滅に関する行為として否認の対象となります。引き揚げた商品の評価額を債権額に比して低く設定した場合には、過大な弁済として扱われる余地もあります。品目、数量、評価の根拠、充当する債権を明記した書面を作成してください。
第三に、所有権留保の特約がある場合には、そもそも所有権がこちらに残っていますので、引揚げは自己の物の回収として位置付けられます。なお、商法第521条は、商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者はその弁済を受けるまで、自己の占有に属した債務者の所有する物を留置することができると定めています。修理のために預かっている機械、加工のために預かっている材料は、この対象となり得ます。
他の債権者に先んじる行為が否認される範囲
否認には、財産を減少させる行為を対象とするものと、特定の債権者だけを利する行為を対象とするものとがあります。破産法第160条第1項第1号は、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為を、同項第2号は、支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為を、それぞれ否認の対象として定めています。民事再生法第127条第1項も同じ構造を採っています。
債権者にとって直接に関係するのは、偏頗行為の否認です。境目となるのは支払不能の時点です。破産法第162条第1項第1号イは、当該行為が支払不能になった後にされたものである場合には、債権者が支払不能であったこと又は支払の停止があったことを知っていたことを要件としています。支払不能を知らずに通常の取引として受領した弁済は、否認されません。
分岐は、こちらが何を知っていたかにあります。支払の猶予を求める書面を受け取った後に、他に先んじて全額の弁済を受けた場合には、知っていたと評価される可能性が高くなります。回収を急ぐあまり、相手方の窮状を認識していることを自ら書面に残す例がありますので、文面には注意を要します。
なぜ「もう少し待つ」という判断が最も損失を大きくするのか
待つことが選ばれる理由は明確です。取引を続ければ売上が維持され、強く出れば相手方が倒れ、回収不能が確定するという懸念があるためです。しかし、待つ間に起きることは三つあります。
第一に、他の債権者が担保を取ります。不動産に先順位の抵当権が設定されれば、後から動いても配当は残りません。第二に、自社の債権の残高が増えます。出荷を続けることは、回収不能となる金額を自ら増やす行為です。第三に、手当ての効力が失われます。支払不能に陥った後に取得した担保も、受けた弁済も、否認の対象となります。
つまり、待つことによって選択肢は増えず、確実に減ります。判断の基準は簡明で、支払の遅延が二度続いた時点、又は決算書の提出を拒まれた時点を、条件の変更に着手する期限としてください。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士が担うのは、登記による資産と担保の状況の調査、基本契約書の解除条項及び期限の利益の喪失の定めの点検と改訂、取引条件の変更の通知書の作成、支払の猶予に応ずる場合の合意書の設計、担保の徴求及び所有権留保の実効性の確保、そして相殺の可否の判断です。交渉の窓口を代理人が務めることにより、営業の担当者が情の面で押し切られることを防ぐことができます。
依頼の時期は、遅延が二度続いた時点です。この段階であれば、否認を受けない形での手当てを組むことができ、また、相手方に対して当方の姿勢を伝える効果も持ちます。相手方が弁護士に依頼した旨の通知を受け取ってからでは、採り得る手段はほぼ残っていません。
いま確認していただきたいこと
当該取引先について、直近3年間の請求額と入金額を月ごとに並べた表を作成してください。遅延が始まった月、金額が減った月、連絡の方法が変わった月が特定できる形にします。あわせて、現在の未回収の残高と、今後1か月に出荷が予定されている金額を確認してください。
次に、基本契約書を取り出し、有効期間、解除の事由、予告期間、期限の利益の喪失の定め、所有権留保の特約、遅延損害金の利率の6点に印を付けてください。定めがない項目は、直ちに補充すべき項目です。
最後に、法務局で商業登記事項証明書、不動産の登記事項証明書、そして動産譲渡登記及び債権譲渡登記の概要記録事項証明書を取得してください。他の債権者が既に担保を設定しているかどうかは、この三点で判明します。自社が負っている買掛金の有無も、相殺の可否のために確認してください。
よくあるご質問
支払を待つ代わりに、代表者の個人保証を取ってもよいですか
取ること自体は可能です。ただし、既存の債務のみを対象とする保証は、会社が破産した場合に否認の議論を招きます。新たな出荷を条件とし、その新規分を含む形で締結する方が安定します。保証契約は書面によらなければ効力を生じませんので、必ず書面で行ってください。
取引先から手形を受け取ることは有利ですか
資金化の時期が遅れるという点では不利です。もっとも、手形の不渡りは客観的な事実として記録されますので、期限の利益の喪失事由としての効果があります。判断は、支払サイトが伸びる不利益と、証拠が残る利益との比較になります。
他の債権者より先に全額を回収してしまってよいですか
通常の取引条件のとおりに受領した弁済であれば問題ありません。相手方の支払不能を認識したうえで、通常の期日より前に、他に先んじて回収した場合には、破産手続の中で否認され、返還を求められる可能性があります。
倉庫にある自社の納品済みの商品を引き揚げてよいですか
所有権留保の特約がある場合を除き、相手方の同意なく搬出してはなりません。同意を得た場合でも、代物弁済として否認の対象となり得ますので、評価額と充当の内容を書面に残してください。
取引を止めれば倒産してしまうと訴えられた場合、続けるべきですか
続けるかどうかは、追加で出荷する分を回収できる見込みがあるかどうかで判断します。前払又は担保を条件として提示し、相手方がこれに応じられないのであれば、その事実自体が資金の状況を示しています。情に基づく判断は、損失を拡大させます。
おわりに
資金繰りの悪化は、突然に起きるものではなく、入金の日と金額、資料の提出、人の交代という形で必ず前触れを伴います。前触れをつかんだ時点で条件を変え、新規の与信と引換えに担保を取り、相殺の材料を確認すること。この三つを支払不能に陥る前に済ませておけば、後から覆されることはありません。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
取引先の資金繰りの悪化と債権の保全に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第137条(期限の利益の喪失)、第505条第1項(相殺の要件等)、第511条第1項(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)、第555条(売買)
- 商法第521条(商人間の留置権)
- 破産法第71条第1項(相殺の禁止)、第160条第1項(破産債権者を害する行為の否認)、第162条第1項(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
- 民事再生法第93条第1項(相殺の禁止)、第127条第1項(再生債権者を害する行為の否認)
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条第1項(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
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