会社を売却したのに代金が支払われない
株式譲渡又は事業譲渡の実行後、譲渡代金の全部又は一部が支払われないという事態は、決して珍しくありません。
特に、譲渡代金が分割払いとされている場合、初回の支払は履行されたものの、2回目以降が滞るという例が見られます。また、業績連動対価(アーンアウト条項に基づく対価)については、算定の基礎となる業績数値の解釈をめぐって争いが生じ、支払が留保される例があります。
この類型の回収は、通常の売掛金の回収とは異なる難しさを伴います。金額が大きいこと、契約書の条項が複雑であること、そして買主側から表明保証違反等の反対請求が主張されることが多いことが、その理由です。
当事務所が取り扱う類型
M&A取引に係る対価の未払いのうち、当事務所は主として次の類型を取り扱っています。
- 株式譲渡代金(会社売却代金)の未払い
- 事業譲渡代金(事業売却代金)の未払い
- 分割払いとされた譲渡代金の2回目以降の履行遅滞
- 業績連動対価(アーンアウト条項に基づく対価)の不払い
- 役員退職慰労金の不払い(譲渡と一体で合意されたもの)
- M&A仲介手数料及びアドバイザリー報酬の未収
買主側からの反対請求への備え
譲渡代金の請求に対し、買主側からは、表明保証違反に基づく補償請求、又は損害賠償請求が反対に主張されることが少なくありません。簿外債務が発見された、開示された財務数値と実際とが異なる、係属中の紛争が開示されていなかった、といった主張です。
これらの反論に対しては、株式譲渡契約書における表明保証の対象範囲、補償の上限額及び期間の制限、開示別紙(ディスクロージャー・スケジュール)の記載、並びに買主のデュー・ディリジェンスにおける認識の有無を精査して対応します。
買主が調査により認識し得た事項について、事後に補償を請求できるかという論点は、契約書の文言の解釈と、交渉の経緯の立証にかかっています。当事務所は、契約書の起案段階の資料及び交渉経過の記録を重視します。
業績連動対価(アーンアウト条項)に関する紛争
業績連動対価は、譲渡後の一定期間における対象会社の業績が所定の水準に達した場合に、追加の対価を支払うという定めです。売主と買主との間の価格に関する認識の差を埋める手段として用いられます。
紛争が生じやすいのは、次の場面です。
- 算定の基礎となる指標(売上高、営業利益、経常利益等)の定義に争いがある場合
- 買主が譲渡後に会計方針を変更し、算定結果が変動した場合
- 買主がグループ内取引により対象会社の利益を移転させたと疑われる場合
- 買主が対象会社の事業を他社と統合し、業績を区分して把握できなくなった場合
- 算定に必要な資料の開示を買主が拒む場合
資料の開示を求める方法
算定の基礎となる資料を買主が開示しない場合には、契約書に定められた閲覧権又は情報提供義務に基づいて開示を求めます。契約書に定めがない場合であっても、信義則上の説明義務を主張する余地があります。
訴訟に至った場合には、文書提出命令の申立てにより、対象会社の会計帳簿等の提出を求めることが考えられます。
回収の手順
おおむね次の順序で進めます。金額が大きい類型であるため、保全処分の要否を早期に判断することが特に重要です。
- 第1段階 株式譲渡契約書その他の取引文書の精読。支払条件、期限の利益喪失条項、相殺の可否、紛争解決条項を確認します。
- 第2段階 買主の資力及び責任財産の調査。買主が持株会社である場合には、その保有資産の把握を要します。
- 第3段階 催告及び任意の交渉。期限の利益喪失条項の適用の可否を検討します。
- 第4段階 仮差押えの申立て。買主が取得した対象会社株式そのものを仮に差し押さえる方法も検討します。
- 第5段階 訴訟の提起。契約書に仲裁条項がある場合には仲裁の申立てとなります。
- 第6段階 強制執行。
当事務所がこの類型を取り扱う理由
当事務所は、M&A及び事業承継を主たる業務としています。株式譲渡契約書の各条項がどのような意図で置かれるものか、企業価値評価がどのような前提でされるものか、そして買主側がどのような主張を組み立てるかを、日常の業務として理解しています。
譲渡代金の回収は、契約書の条項の解釈と、取引の経緯の立証の双方を要する業務です。契約実務と紛争実務の双方を扱う体制が必要となる領域です。
御相談の申込み
M&A代金の回収については、電話又はお問い合わせフォームより承ります。電話の受付は午前9時から午後9時まで、お問い合わせフォームは24時間受け付けています。
御相談の際は、株式譲渡契約書又は事業譲渡契約書、基本合意書、開示別紙、支払の記録、買主との通信記録をお持ちください。


























