仮差押えをして債権回収する方法!

目次

「債権回収」とは?

ビジネスにおいて、売り上げを伸ばすことは非常に重要です。ただし、いくら売り上げを伸ばしても、取引先から代金を回収できなければ意味がありません。

実際にビジネスの現場では、取引相手が何らかの理由で代金を支払ってくれない場合があり得ます。そのため、代金回収のことまでしっかり意識しておく必要があるのです。

ここでいう「代金」のことを、法律用語で「売掛債権」と呼びます。取引先が支払ってくれない代金を回収することは、「売掛債権の回収」ということになります。こうした「債権回収」に関する法律知識を知っておくことは、ビジネスを円滑に進めるために不可欠だと言えるでしょう。
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債権回収手段のバリエーション

なお、売掛債権の回収がどのように行われるかは、「債権の焦げ付き具合」によって異なります。そこでまずは、債権回収方法の様々なバリエーションについて、ざっくりとした概観を見ておきましょう。

取引先との合意による債権回収

代金の支払いが滞ったとしても、取引先のリアクションを得られるという段階であれば、「債権の焦げ付き具合」はまだそれほど深刻ではありません。取引先との合意によって、債権を回収する手段があるからです。

たとえば、取引先に支払い能力がない場合であっても、取引先との間で「相殺」や「債権譲渡」の合意をすることで債権を回収できます。

このうち「相殺」という手段を使えるのは、「自社が取引先に対する売掛債権を持っているのと同時に、取引先の側にも自社への売掛債権がある」というケースです。この場合は、お互いの売掛債権をチャラにする、すなわち相殺することで、代金を支払ってもらったのと事実上同じ結果にすることができます。

一方で「債権譲渡」という手段を使えるのは、「取引先が自社以外の第三者に対して売掛債権を持っている」というケースです。つまり、取引先の第三者に対する売掛債権を自社へ譲ってもらう代わりに、取引先への売掛債権をチャラにするのです。支払い能力のない取引先の代わりに、第三者に対してお金を請求できるようになるので、債権回収は事実上成功したことになります。

担保権の実行による債権回収

取引先のリアクションが得られない段階になると、「債権の焦げ付き具合」の深刻さが増してきます。ただ、この場合も取引先からあらかじめ「担保」を取っていれば、そこから債権を回収することが可能です。

たとえば、取引先と契約を結ぶ際に、取引先が所有する不動産にあらかじめ「抵当権」をかけておくのです。そうすれば、取引先が約束通りに支払ってくれない場合に「抵当権」を実行することで、不動産を競売にかけることが可能になります。この競売にかけた不動産の売却代金を原資として、売掛債権を回収できるのです。

裁判所を利用した債権回収

「債権の焦げ付き具合」がもっとも厄介になるのは、取引先のリアクションが得られないにもかかわらず、「担保」も取っていなかったというケースです。この場合には、裁判所を利用した債権回収を行う必要が出てきます。

具体的な手順としては、①まず、債権回収の原資を確保するために、取引先の財産を凍結する手続き(保全手続)を行います。②次に、取引先に対して代金の支払いを請求する民事訴訟を提起します。③この訴訟で勝訴判決を勝ち取ることができれば、裁判所を利用して取引先の財産から債権回収をすること(強制執行手続)が可能となります。

裁判所を利用した債権回収は、数ある債権回収方法の中でも最終手段として位置づけられます。強力な効果を持つ手続きであると同時に、金銭的・事務的なコストの負担も決して小さくありません。費用対効果をしっかり検討しながら、慎重に取り組む必要のある債権回収方法だと言えるでしょう。

「仮差押え」と「差押え」の違い

前項で紹介した「裁判所を利用した債権回収」に関連して、「仮差押え」や「差押え」という非常に似通った用語が登場します。混同しやすいのですが、これらは全く異なる手続きです。両者の違いについて知っておくことが、債権回収に対する理解を深めるための一番の近道と言えます。

そこで、ここでは「仮差押え」と「差押え」を比較しながら、裁判所を利用した債権回収について理解を深めていきましょう。

「仮差押え」と「差押え」の目的の違い

「仮差押え」と「差押え」のどちらも、「債務者に自分の財産を勝手に処分させないようにするための手続き」であるという点では共通しています。しかし、その目的が異なる点に注意が必要です。

「保全手続」と「強制執行手続」

先ほども触れましたが、裁判所を利用した債権回収は「①保全手続→②訴訟→③強制執行手続」の順序で進んでいきます。

このうち、「①保全手続」の段階で行われるのが「仮差押え」です。これに対して、「差押え」は「③強制執行手続」の段階で行われます。

「仮差押え」は保全手続の段階で行われるもの

まず、①の段階で行われる「仮差押え」は、債権回収が空振りに終わらないようにするための「予防的な手続き」です。

というのも、債権を回収する前に債務者が勝手に財産を処分してしまうと、債務者が無一文となり、債権回収が失敗に終わりかねません。債権回収を成功させるためには、債務者の手元に財産が残るようにする必要があるのです。

そこで債務者の財産処分を禁止し、債権回収の実効性を高めるのが「仮差押え」なのです。「仮差押え」をされたからといって、対象となった財産がすぐさま競売にかけられるわけではありません。

「差押え」は強制執行手続の段階で行われるもの

一方、③の段階で行われる「差押え」は、実際に強制執行を始めてしまうための手続きです。

強制執行手続では、債務者の財産を競売にかけて換金し、そのお金を債権者に対する支払いに充てます。この一連の手続きの中で、競売を行う準備として行われるのが「差押え」なのです。

言い換えるならば、「差押え」とは「競売にかけるための財産を債務者から奪うための手続き」だと言えるでしょう。

「仮差押え」と「差押え」のスピード感の違い

こうした「仮差押え」と「差押え」の目的の違いは、両者のスピード感の違いにも影響してきます。

「差押え」は時間をかけて行われる

強制執行手続の本番として行われる「差押え」は、債務者の財産を奪う強烈な行為です。そのため、債務者が正式に敗訴した後でなければ、「差押え」を行うことはできないという制度設計になっています。

訴訟の場で債権者と債務者が時間をかけて争い、裁判所の判決によって請求債権の存在が確定されることで、初めて「差押え」が可能になるのです。なお、「差押え」が可能になるために必要な裁判所の判決のことを、特に「債務名義」と呼びます。

「仮差押え」はスピーディーに行われる

これに対して「仮差押え」は、債務者の財産流出を防ぐ目的で行われる、緊急性の高い手続きです。そのため、できる限り時間をかけずスピーディーに手続きを進める必要があります。そこで、「仮差押え」を実行すべきか否かは、訴訟よりも簡易な書面審理のみで判断される制度設計になっています。

この書面審理では、訴訟のように債権の存在を証明することまで求められません。債権の存在が「一応確からしい」と裁判官に認めさせることができればOKです(このことを、証明と区別して「疎明」と呼びます)。

なお、「仮差押え」の書面審理では、債権の存在に加えて「保全の必要性」も疎明しなければなりません。たとえば債務者が最近出した不渡り手形など、債務者の信用状態を疎明することのできる書類を提出することとなります。

以上をまとめると、「仮差押え」の手続きを進めるためには、債権の存在と保全の必要性を疎明できる書類を用意すれば足ります。

このように「仮差押え」は、訴訟の場で判決(債務名義)を勝ち取る必要のある「差押え」に比べると、非常にスピーディーに進めることのできる手続きとなっていることがわかるでしょう。
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仮差押えのメリット・デメリット

ここからは「仮差押え」に対する理解をさらに深めるため、そのメリットやデメリットについて詳しく見ていきましょう。

仮差押えのメリット

強制執行の空振りを予防できる

「仮差押え」の最大のメリットは、強制執行が空振りに終わることを予防できるという点です。

たとえば、代金を支払わない取引先に対する強制執行手続を、もし「仮差押え」をしないまま進めたらどうなるか考えてみましょう。

取引先への強制執行を実行するには、取引先に対する訴訟を提起し、債務名義として勝訴判決を得る必要があります。そのためには、多大なコストを投入して訴訟に勝たなければなりません。

そこまでして強制執行を実行したにもかかわらず、取引先の手元に回収すべき財産がなかったとしたらどうでしょう。強制執行の回避をたくらむ取引先としては、訴訟が終わる前に全財産を第三者名義にしてしまうこともあり得るのです。

この場合、強制執行は空振りに終わってしまいます。債務名義を得るために投入したコストが、すべて水の泡となってしまうのです。債権を回収できないだけでも大きな損失なのに、無駄になった訴訟コストの負担まで強いられるという、散々な結果に終わります。

このように、もし「仮差押え」という制度がなかったとしたら、強制執行制度自体が有名無実化してしまうのです。強制執行手続の利用を考えるのであれば、忘れずに「仮差押え」の手続きを踏んでおく必要があると言えるでしょう。

債務者に対して大きなプレッシャーを与えられる

「仮差押え」は、訴訟よりも簡易的な書面審理のみで発令されます。

そのため、「仮差押え」を実行するのに要する時間は約1週間程度であり、非常にスピーディーな手続きとなっています。また、「仮差押え」の書面審理に必要なのは債権者側が提出する書面だけなので、手続きの開始を債務者が知ることもありません(密行性)。

つまり債権者の側からすると、債務者に対して財産流出のチャンスを与えることなく、素早く「仮差押え」を実行することができます。一方で債務者の側からすると、手続きの進行について一切知らされないまま、ある日突然に自らの財産の処分が凍結されたことを知ることになるのです。

このように「仮差押え」の実行は、債務者に対して大きな心理的プレッシャーを与えます。また、財産を凍結されたことにより、債務者自身のビジネスもストップしてしまいます。債務者としては、一刻も早く「仮差押え」の状態から脱したいと考えるはずです。

したがって「仮差押え」を実行することで、その後の交渉を債権者の有利に進めることが可能になります。それまで支払いを請求してもリアクションを見せなかった債務者が、「仮差押え」の実行を受けて、一転して債権者の要求を受け入れるようになることも少なくありません。

さらにその後の交渉が順調に進めば、債務者との間でうまく合意がまとまることもあります。合意による債権回収が実現すれば、強制執行に必要な訴訟コストを負担せずに済むので、状況が一気に好転します。

凍結できる財産の種類に制限がない

なお、「仮差押え」の対象とすることができる財産には、制限が一切ありません。

土地・建物といった不動産が「仮差押え」の対象になるのはもちろん、機械・什器類などの動産も対象になります。さらには、債務者が第三者(これを特に「第三債務者」と呼びます)に対して有する債権も、「仮差押え」の対象にすることができます。

つまり、「仮差押え」という手段を選択するに際し、債務者が有する財産の種類を気にする必要はありません。債務者が何らかの財産を持っている限り、「仮差押え」は債権回収を成功させるための有効な手段となるのです。

仮差押えのデメリット

保証金を準備する必要がある

一方で、「仮差押え」のデメリットとしては、裁判所から保証金の供託を要求される点が挙げられます。

先ほどメリットのところで触れましたが、「仮差押え」の手続きは債務者に知られることなく、債権者だけで進めることができます。このように、債権者の一方的な申立てだけで手続き可能であることの裏返しとして、債権者には保証金を供託することが求められるのです。

保証金の金額は、債務者に対する金銭債権の20%~30%が相場となっています。回収したい債権の金額が高額であればあるほど、供託しなければならない保証金も高額になってしまうというわけです。決して少なくない額のお金を用意しなければならない点は、「仮差押え」の大きなデメリットだと言えるでしょう。

なお、仮差押え後の訴訟で債権者の全面勝訴となった場合や、債務者との合意がまとまり任意の債権回収ができた場合には、供託した保証金はちゃんと戻ってきます。

一方で、債務者との訴訟に全面敗訴または一部敗訴した場合、供託した保証金は債務者に対する損害賠償に充てられることとなります。場合によっては、供託した保証金の全額が、債務者に対する損害賠償に消えてしまう可能性もあります。

したがって、見込まれる回収可能額・保証金の額・敗訴リスクなど、費用対効果を慎重に検討したうえで、「仮差押え」の手続きを利用するか否かを判断する必要があるのです。

債務者を倒産させてしまうリスクがある

メリットのところでも触れたことですが、債務者の資産を凍結する「仮差押え」の処分は、債務者のビジネスに対して大きなダメージを与えます。だからこそ「仮差押え」をすることで、債務者にプレッシャーを与えることになり、その後の交渉を有利に進めることができるのです。

その反面、「仮差押え」のタイミングを間違えると、債務者のビジネスが完全に行き詰ってしまうことになりかねません。「仮差押え」によって資産を凍結されたことによって、債務者の経済的信用は大きく低下するからです。最悪の場合、「仮差押え」をきっかけに債務者が倒産してしまうことも考えられます。

債務者が倒産してしまうと、債権回収の計画自体が暗礁に乗り上げてしまいます。債権を回収するために行った「仮差押え」を行ったのに、そのせいで債権回収が失敗に終わっては本末転倒です。したがって、債務者を倒産に追い込んでしまうリスクを抱えているという点は、「仮差押え」の重要なデメリットとして挙げることができるでしょう。

第三債務者の財政状況にも注意が必要

「仮差押え」のメリットについて説明する中で、「仮差押え」の対象には制限がないという点を挙げました。すなわち、債務者が第三債務者に対して持っている金銭債権についても、「仮差押え」によって凍結することが可能です。

たとえば、A社への支払いを渋っているB社が、別のC社に対して1,000万円の金銭債権を持っていたとしましょう。B社からの債権回収を考えているA社としては、債権回収の原資を確保するために、B社がC社に対して有する金銭債権1,000万円を債権回収の原資としたいところです。

しかし、仮にC社の財政状況が非常に苦しいものだとしたら、B社のC社に対する金銭債権は「絵に描いた餅」に過ぎません。いくら「仮差押え」によってB社のC社に対する金銭債権を凍結したところで、その後の強制執行手続は空振りに終わってしまうのです。

このように、金銭債権に対して「仮差押え」を行う際には、第三債務者の財政状況によって債権回収の可否が左右されるというデメリットがあります。

金銭債権の保全以外には使えない

「仮差押え」の手続きを利用できるのは、金銭債権の保全が目的である場合に限られます。

たとえば、A社がB社に対して商品を販売したにもかかわらず、B社がその代金を一向に支払おうとしないような場合、A社はB社に対して「商品代金の支払請求権」を持っていることになります。このような「お金を支払うことを要求する権利」を保全する場合に限って利用できるのが、「仮差押え」の手続きなのです。

これに対して、金銭債権以外の権利を保全したい場合には、「仮差押え」の手続きは使えません。

たとえば、A社がB社から特注の工場機械を購入したとしましょう。しかし、A社が代金をきっちり支払ったにもかかわらず、B社は工場機械をA社へ納入しようとせず、別のC社へ納入しようとしているのです。この工場機械は特注なので他から調達することが難しく、納入の遅れによりA社の事業は大きなダメージを受けてしまいます。

A社としては、C社への納入を阻止するために、急いで工場機械の処分を凍結したいところです。しかし、この場合に利用できるのは「仮処分」という手続きであって、「仮差押え」ではありません。なぜなら、ここでA社が保全しようとしている権利は「工場機械の納入を要求する権利」であって、金銭債権ではないからです。

このように、保全したい権利の種類によって手続きを利用できなくなるという点も、「仮差押え」のデメリットの一つとして数えられるでしょう。

仮差押えの手続きの流れ

ここからは、「仮差押え」の手続きの流れについて詳しく見ていきましょう。

仮差押命令の申立て

「仮差押え」の手続きは、債権者が裁判所に対して「仮差押命令の申立て」を行うところからスタートします。そこで、まずは仮差押命令の申立てについて説明をします。

管轄裁判所

仮差押命令の申立てを、どの裁判所に対してすればよいかという問題です。

この点については、「仮差押え」の執行後に債務者に対して提起する訴訟の管轄裁判所に対して、仮差押命令の申立てをすればよいと考えておけば大丈夫です。具体的には、原告となる債権者の住所を管轄する裁判所、または被告となる債務者の住所を管轄する裁判所です。

なお、仮差押命令の申立て先と、その後の訴訟の提起先は、別の裁判所でもかまいません。仮差押命令の申立て先となる裁判所は、厳密には「その後に訴訟を提起する予定の裁判所」と規定されています。

なぜなら、緊急性の強い手続きである「仮差押え」は、その後の訴訟の段取りがまだ確定していない段階で行うのが普通だからです。つまり、仮差押命令を申し立てる裁判所を決める際には、その後に訴訟を提起する裁判所を確定することまでは要求されていないのです。

さらに、「仮差押え」の対象となる財産の所在地を管轄する裁判所にも、仮差押命令の申立てをすることが認められています。仮差押命令の申立て先となる裁判所については、「仮差押え」が緊急時の手続きであることにかんがみて、柔軟な制度設計がされていると言えるでしょう。

提出すべき書類

「仮差押え」は、債務者に対して秘密裏に行う必要のある手続きです。そのため、裁判所が「仮差押え」を執行すべきか否かを判断する際には、債務者が関与する機会を与えずに、債権者側が提出した書類のみを用いて審理を行います。

では、仮差押命令の申立てを行う債権者は、いったいどのような書類を提出すればよいのでしょうか。

まずは、「保全すべき権利を疎明する書類」の提出が求められます。

ここで言う「保全すべき権利」とは、債権回収が必要となっている金銭債権のことです。また「疎明」とは、「裁判官にその事実が一応確からしいと信じさせること」を言います。「仮差押え」は緊急時の手続きなので、正式な訴訟で必要な「証明」よりもハードルの低い「疎明」で足りる、と考えておけば良いでしょう。

具体的には、契約書・注文書・納品書・伝票・請求書といった書類が、「保全すべき権利を疎明する書類」該当します。

さらに、「保全の必要性を疎明する書類」も提出しなければなりません。ここでの「保全の必要性」とは、このまま放置しておくと債権回収ができなくなってしまう、ということです。

具体的には、不渡り手形や信用調査報告書など、債務者の経済的信用力が大幅に低下している事実を示す書類が該当します。債務者の財産隠しが疑われる場合には、債務者が最近処分した土地の登記簿謄本なども、「保全の必要性を疎明する書類」として利用することが可能です。

以上のような書類を「疎明資料」として、申立てでの主張の順番に沿って番号を付したうえで、申立書に添えて提出することになります。これらの書類が手元に残っていない場合は、「仮差押え」の手続きを進めることが難しくなってしまうのです。

仮差押えの対象物の特定

「仮差押え」によって凍結できる財産の種類には、制限がありません。ただ、凍結の対象となる財産の種類によって、申立ての際に扱いが異なるので注意が必要です。

凍結の対象とするのが不動産・債権の場合は、申立て時に対象物を特定しておかなければなりません。不動産の処分を凍結したい場合は「物件目録」を、債権の処分を凍結したい場合は「仮差押債権目録」をそれぞれ作成して、申立書に添付する必要があります。

一方で動産の場合は、対象物を特定せずに申立てをすることが可能です。というのも、動産の「仮差押え」においては、執行官が現場に立ち入るまでは実際にどのような動産が存在するか分からないのが通常だからです。したがって申立人(債権者)としては、動産が存在する「場所」を特定するだけで足ります。

保証金の供託

保証金とは?

必要な書類を揃えて仮差押命令の申立てを行った後は、裁判所の書面審理に入ります。なお、このタイミングで必要になるのが、保証金の供託です。

というのも、債権者の申立てのみで開始する「仮差押え」は、債務者にとって非常に不利な手続きです。この点を考慮して、債権者には保証金の供託が要求されているのです。

なお、「仮差押え」のデメリットについて説明した箇所でも触れましたが、保証金の金額は保全する金銭債権の20%~30%程度が相場となっています。

保証金の供託の流れ

では、具体的な手続きの流れを見ていきましょう。

裁判所の書面審理は、非常にスピーディーに進みます。申立てをした日の翌日、あるいは翌々日には、申立人(債権者)と裁判官で面接をする機会が設けられます。

裁判官との面接の場では、申立書に不備がないか確認が行われます。必要があれば、その場で申立書の補充をすることも可能です。

申立書に特段不備がないようであれば、申立人(債権者)に対して保証金の供託が命じられます。「1週間以内に保証金を供託することを条件として、仮差押命令を発令する」といった内容の決定がなされるのです。

この決定を受けて、申立人(債権者)は法務局などの供託所に対して、所定の金額の保証金を供託します。なお供託とは、一定の法的効果を発生させるために供託所へお金を預けることを言います。「仮差押え」における供託には、仮差押命令が発令されるという法的効果が与えられているのです。

供託金の納入は、原則として供託所の窓口へ直接現金を持参して行います。窓口で渡される「供託書」に必要事項を記入し、所定の金額の供託金を納入します。

供託手続きの完了と引き換えに、「供託書正本」という書類が交付されます。これを裁判所に提出することで、仮差押命令が発令されることになります。供託書正本を午前中に提出することができれば、仮差押命令をその日のうちに発令してもらうことが可能です。

なお、供託金の納入は振り込みや電子納付でも可能です。ただし、窓口で直接納入するよりも供託書正本を入手できるタイミングが遅くなるため、その後の手続きも遅れてしまいます。急いで債務者の資産を凍結したい場合は、できる限り窓口で供託金を納入する方が良いでしょう。

仮差押命令の発令

申立人(債権者)が裁判所に供託書正本を提出すると、いよいよ仮差押命令が発令され、実際に「仮差押え」が執行されることになります。

不動産・債権を対象とする場合

不動産の処分を凍結する場合は、裁判所が法務局に対して「仮差押登記」を依頼します。対象となる不動産の登記簿に「仮差押え」の登記がされることにより、売却等の処分を行うことが不可能になるのです。

債権が対象の場合は、凍結対象となる債権の債務者(第三債務者)へ「仮差押決定通知書」が送付されます。たとえば凍結債権が代金債権である場合は売り主が、預金口座である場合は銀行が、それぞれ第三債務者となります。仮差押決定通知書を受け取った第三債務者は、それ以降弁済をすることができなくなるのです。

これらの処分はいずれも、債務者への通知よりも先に行われます。なぜなら「仮差押え」は、債務者の資産隠しを防ぐために急いで秘密裏に行う必要があるからです。

動産を対象とする場合

なお、動産を対象とする「仮差押え」の場合は、執行官が直接現場に立ち入って執行するため、執行と同時に債務者の知るところとなってしまいます。これは動産を対象とする以上仕方のないことであり、「仮差押え」という制度の限界だと言えるでしょう。

仮差押えによる債権回収のポイント

最後に、「仮差押え」を利用して債権回収を進める際に注意すべきポイントをまとめます。

仮差押えの対象物を適切に選ぶ

デメリットとしても触れたように、「仮差押え」には取引先を倒産させてしまうリスクがあります。取引先に倒産されては、債権回収自体が失敗に終わってしまいます。

そこで、「仮差押え」による倒産を防ぐため、凍結する財産の種類を適切に選ぶことが重要です。結論から言うと、商品や売掛債権を凍結するよりも先に、不動産を対象物として「仮差押え」の手続きを進めるようにしましょう。

なぜなら、商品を凍結された取引先は、商品を売ることができなくなってしまいます。また、売掛債権を凍結された取引先は、売掛金の回収ができなくなり資金繰りが厳しくなってしまいます。こうしたダメージは取引先にとって非常に大きなものとなり、倒産の引き金になりかねません。

そこで、事業への直接的な影響が少ない「不動産の仮差押え」から検討を始めるのが得策だと言えるのです。

債権管理を日ごろから怠らないようにする

「仮差押え」を利用した債権回収を成功に導くには、平常時から債権管理を怠らないことが非常に重要となります。具体的には、取引先ごとに売掛金の発生日時・支払期日・代金回収日などをしっかり記録し、請求書などの書類も漏れなく保管しておくのです。

売掛債権の記録をつけておくことで、取引先に対する債権の焦げ付き具合を判断することが可能となり、適切なタイミングで「仮差押え」を申し立てることができます。

また、売掛債権の記録をつけておくことで、取引先の財政状況を推測することもできます。資金繰りに余裕のある時期を推定することができれば、その時期にタイミングを合わせて預金口座に「仮差押え」をかけることで、債権回収の効果を最大限にすることができます。

さらに、請求書等の書類をきっちり保管しておくことは、「仮差押え」の申立ての際に提出する疎明資料を素早く準備できることにもつながります。

内容証明郵便を用いた支払い請求を忘れないようにする

債権回収を進める際に見落としがちな落とし穴として、回収しようとする債権の消滅時効が挙げられます。「消滅時効」とは、法律に定められた期間を何もせずに経過すると、権利が消滅してしまうという制度のことです。なお、売掛債権が消滅時効によって消滅する期間は、一般的に5年間とされています。

消滅時効の進行を止める手段には、「裁判上の請求」と「裁判外の請求」があります。「裁判上の請求」とは、ずばり訴訟を提起することです。一方「裁判外の請求」は、理屈の上では口頭で「支払ってくれ」と言うことも含まれるのですが、証拠として明確に残る内容証明郵便を用いるのが一般的です。

なお、「裁判外の請求」でいったん消滅時効が中断しても、6か月以内に「裁判上の請求」すなわち訴訟を提起しないと、再び消滅時効が進行を始めてしまいます。

つまり、「仮差押え」をして訴訟に持ち込んだとしても、6か月以内に「裁判外の請求」をしておかなければ、肝心の債権が消滅してしまう恐れがあるのです。

したがって、債権回収に取り掛かる際には消滅時効の成立を防ぐために、まずは内容証明郵便を用いて支払い請求することを忘れないようにしましょう。
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    弁護士土屋勝裕
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