貸付けに際して徴求する保証及び担保の設計と回収の場面での効き方

長年の付き合いのある同業の社長から、決算の期をまたぐまでの3か月だけ5,000万円を融通してほしいと頼まれました。金利は年5パーセント、返済は一括、書面は借用証書1枚です。社長は必ず返すと言い、実際に過去2回は約束どおり返済されています。今回も同じつもりで応じてよいものか、というご相談を数多くお受けします。

貸し付けた後にできることは限られています。返済が滞ってから担保を求めても、相手方には差し出す資産が残っていないか、既に他の債権者が押さえています。回収の可否は、貸す時点で何を取っておいたかによってほぼ決まります。

結論から申し上げます。保証及び担保は、書面を取り交わせば足りるものではなく、種類ごとに定められた手続と対抗要件を満たして初めて回収の場面で機能しますので、貸付けの実行前に、その一つ一つを完了させる必要があります。民法第465条の6第1項は、事業のために負担した貸金等債務の個人による保証について、締結の日前1か月以内に作成された公正証書を要すると定めています。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

貸付けの前と後とでは採り得る手段が異なりますので、次のとおり切り分けます。

回収の成否は、貸す前にほぼ決まっています

金銭を貸すという行為は、相手方の将来の支払能力に対する評価です。評価が外れたときにどこから回収するかを定めておく作業が、保証及び担保の設計です。この作業を省略した貸付けは、相手方の資産が残っている場合にのみ回収できます。

備えは三つに分かれます。第一は、支払の責任を負う者を増やすことであり、保証がこれに当たります。第二は、特定の財産から優先的に弁済を受ける地位を確保することであり、抵当権、質権、譲渡担保がこれに当たります。第三は、支払が遅れた場合に直ちに請求し執行できる状態を作ることであり、期限の利益の喪失の定めと執行受諾文言を付した公正証書がこれに当たります。

三つのうち、費用が最も小さいのは第三です。それにもかかわらず、借用証書1枚で済ませる例が繰り返されています。実行前であれば、相手方は資金を必要としていますので条件を提示できます。実行してしまえば、その立場は失われます。

個人の保証を求める場合に必要となる手続

保証には、まず書面の要件があります。民法第446条第1項は、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うと定め、同条第2項は、保証契約は書面でしなければその効力を生じないと定めています。口頭の約束や電話での了承は、保証として成立しません。

次に、単純保証と連帯保証の違いがあります。民法第452条は、債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人はまず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができると定めています。民法第453条は、主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済の資力があり執行が容易であることを証明したときは、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならないと定めています。これらの抗弁を封ずるため、実務では連帯保証とし、その旨を書面に明記します。

継続的な取引から生ずる不特定の債務を保証させる場合には、別の規律が働きます。民法第465条の2第1項は、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないものを個人根保証契約とし、その保証人は極度額を限度として履行の責任を負うと定めています。同条第2項は、極度額を定めなければその効力を生じないとしています。極度額の記載を欠く保証書は無効です。

事業に係る債務の保証で公正証書が必要となる場合

最も見落とされやすいのが、この手続です。民法第465条の6第1項は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又はその範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、締結に先立ち、締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないと定めています。

同条第2項は、その方式を定めています。保証人になろうとする者が、主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、利息、違約金その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容、並びに主たる債務者が履行しないときには全額について履行する意思を有していることを、公証人に口授します。公証人がこれを筆記し、読み聞かせ又は閲覧させ、正確であることの承認を得て署名押印を受けます。

もっとも、全ての事業性の保証にこの手続が必要となるわけではありません。民法第465条の9は、保証人になろうとする者が、主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者、主たる債務者の総株主の議決権の過半数を有する者、及び主たる債務者と共同して事業を行う者又はその事業に現に従事している配偶者であるときには、前三条の規定を適用しないと定めています。借入れをする会社の代表取締役からの保証には、公正証書は不要です。これに対し、代表者の親、成人した子、事業に従事していない配偶者からの保証は、公正証書がなければ無効となります。

不動産に担保を設定する場合の順位と評価

不動産は、価値の把握が容易で換価の手続も確立していますので、担保として最も確実です。民法第369条第1項は、抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定めています。占有を移しませんので、相手方は当該不動産を使用し続けることができます。

最初に確認すべきは順位です。民法第373条は、同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その順位は登記の前後によると定めています。既に金融機関の抵当権が設定されている物件では後順位となり、それが意味を持つかどうかは、物件の価値と先順位の被担保債権の残額との差によって決まります。

そこで、次の手順で評価します。第一に、登記事項証明書によって先順位の担保権と債権額又は極度額を把握します。第二に、近隣の取引事例、路線価、固定資産税評価額を用いて時価を推計します。第三に、時価に7割程度の掛目を乗じた額から先順位の残額を差し引きます。残額が貸付額に満たなければ、その担保は名目上のものにとどまります。根抵当権の極度額は実際の残債務額と一致しませんので、残高証明の提出を条件とすることも有効です。

売掛債権及び在庫を担保とする場合の対抗要件

不動産を有しない事業者に対しては、売掛債権と在庫が担保の候補となります。いずれも、対抗要件を備えなければ他の債権者に権利を主張できません。

債権を担保として譲り受ける場合、民法第467条第1項は、債権の譲渡は譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないと定めています。同条第2項は、その通知又は承諾は確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないとしています。もっとも、この方法では相手方の取引先に窮状が伝わりますので、実行が難しい場面があります。

そこで用いられるのが、登記による方法です。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項は、法人が債権を譲渡した場合において債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については確定日付のある証書による通知があったものとみなすと定めています。在庫については、同法第3条第1項が、動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは引渡しがあったものとみなすと定めています。登記であれば、取引先に知られることなく対抗要件を備えられます。対象の特定の方法、保管場所の限定、定期的な在庫報告の徴求を、契約書に定めてください。

株式を担保とする場合の実効性

相手方が持株会社である場合、又は主要な資産が子会社の株式である場合には、株式を担保とします。会社法第146条第1項は、株主はその有する株式に質権を設定することができると定めています。

手続は、株券を発行しているかどうかで分かれます。株券発行会社の株式の質入れは、株券の交付をしなければ効力を生じません。株券不発行会社では、質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載します。定款を確認し、株券発行の定めがある場合には、株券が現実に発行されているかを確認してください。

もっとも、非上場の株式では実効性に限界があります。第一に、換価が困難です。買い手が見つからず、競売に付しても入札がない例があります。第二に、譲渡制限の定めが置かれていることが通例であり、実行の際に会社の承認の手続を要します。第三に、対象会社の経営が相手方の手中にある限り、その資産が流出すれば株式の価値も失われます。株式のみを担保とする設計は避け、代表者の連帯保証又は対象会社の不動産への抵当権と組み合わせ、重要な資産の処分に事前の承諾を要する特約を置いてください。

契約書に置くべき期限の利益の喪失の定め

分割弁済とする場合、この定めがなければ遅滞した回の分しか請求できません。次の事由を列挙し、これらに該当したときは通知催告を要せず当然に残額の全部について期限の利益を失う旨を定めます。

列挙すべき事由は、第一に、支払を1回でも怠ったとき。第二に、手形又は小切手が不渡りとなったとき、及び支払を停止したとき。第三に、倒産手続の申立てをし、又は第三者からこれを受けたとき。第四に、財産について差押え又は滞納処分を受けたとき。第五に、差し入れるべき担保を提供せず、又は担保の価値が著しく減少したとき。第六に、事業を廃止し、又は解散の決議をしたとき。第七に、虚偽の報告をしたときです。

これらに加えて、財務状況の報告義務を定めます。毎期の決算書及び毎月の試算表の提出、他からの借入れの事前の通知、担保に供していない資産を処分する場合の事前の承諾を明記します。報告を怠ったこと自体を喪失事由としておけば、悪化を早期に把握し、他の債権者に先んじて動くことができます。さらに、契約書を執行受諾文言付きの公正証書としてください。訴訟を経ずに執行へ進むことができます。

なぜ保証書に署名を得ただけでは足りないことがあるのか

署名のある保証書があっても、回収の場面で無効とされる場合が三つあります。第一は、極度額の定めを欠く個人根保証です。継続的な貸付けの全てを対象とする保証書に極度額の記載がなければ、効力を生じません。

第二は、公正証書を欠く事業性の保証です。代表者の親族から保証を得たにもかかわらず、保証意思を宣明する公正証書を作成していない場合、その親族に対する請求は認められません。しかも、締結の日前1か月以内に作成されたものでなければなりませんので、後から補うことができません。

第三は、保証人の資力が確認されていない場合です。法律上の無効ではありませんが、結果は同じです。保証を求める際には、保証人の資産の一覧、不動産の登記事項証明書、直近の源泉徴収票又は確定申告書の提出を受けてください。保証人自身の不動産に抵当権を設定する物上保証を併用すれば、保証は実効性を備えます。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、相手方及び保証人の資産の調査、担保の選定と評価、金銭消費貸借契約書及び保証契約書の作成、公証役場との調整、抵当権設定契約書の作成と登記の手配、動産譲渡登記及び債権譲渡登記の申請、株式への質権設定の手続、そして実行の順序の設計です。公正証書を要する保証に当たるかどうかの判断は、後の効力を左右します。

依頼の時期は、貸付けの条件を協議している段階です。実行の日が決まってからでは、公正証書の作成に日数を要しますので間に合いません。融通を求められた時点で、条件の設計に着手してください。

いま確認していただきたいこと

相手方について、商業登記事項証明書、直近3期の決算書、試算表、所有する不動産の登記事項証明書を求めてください。決算書の提出を拒む相手方には、貸し付けないという判断が最も安全です。登記事項証明書からは、先順位の担保権と極度額を確認します。

次に、保証人となる者について、主たる債務者との関係を確認してください。取締役であるか、議決権の過半数を有するか、共同して事業を行っているか、事業に現に従事している配偶者であるかによって、公正証書の要否が決まります。いずれにも当たらない場合には、締結の日前1か月以内に公正証書を作成する日程を先に確保してください。

最後に、契約書の案について、極度額の記載、連帯保証である旨の記載、期限の利益の喪失事由、報告義務、担保の提供義務、遅延損害金の利率、執行受諾文言の7点を確認してください。登記を要する担保は、実行と同日に手続を完了させる日程を組んでください。

よくあるご質問

借用証書だけでも法律上は有効ではありませんか

貸付けそのものは有効に成立します。問題は、返済されなかったときに何から回収するかです。保証も担保もなければ、相手方に資産が残っている場合にのみ回収できます。

代表者の保証に公正証書は必要ですか

不要です。主たる債務者が法人である場合のその取締役等については、公正証書に関する規定を適用しないと定められています。これに対し、代表者の親、独立して生計を営む子、事業に従事していない配偶者からの保証には、公正証書が必要です。

極度額はどのように定めればよいですか

想定される最大の残高に、遅延損害金及び費用を加えた額を目安とします。個人根保証契約では極度額を定めなければ効力を生じませんので、必ず金額を明記してください。

後順位の抵当権でも意味はありますか

時価から先順位の残債務を差し引いた額が残っていれば意味があります。残らない場合には、他の担保又は保証を併せて求めることになります。順位は登記の前後で決まりますので、設定は速やかに行ってください。

取引先に知られずに売掛債権を担保に取れますか

債権譲渡登記による方法であれば、債務者以外の第三者に対する対抗要件を、取引先への通知を経ずに備えられます。ただし、取引先本人に主張するためには、別途、登記事項証明書を交付した通知又は承諾が必要です。

おわりに

保証も担保も、書面を交わした時点ではなく、定められた手続と対抗要件を満たした時点で効力を持ちます。保証人の属性から公正証書の要否を判断し、極度額を記載し、登記を実行と同日に完了させること。この三つを貸付けの前に済ませておけば、返済が止まったときに直ちに動くことができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

貸付けに際しての保証及び担保の設計に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 民法第446条第1項及び第2項(保証人の責任等)、第452条(催告の抗弁)、第453条(検索の抗弁)
  • 民法第465条の2第1項(個人根保証契約の保証人の責任等)、第465条の6第1項(公正証書の作成と保証の効力)、第465条の9(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)
  • 民法第369条第1項(抵当権の内容)、第373条(抵当権の順位)、第467条第1項及び第2項(債権の譲渡の対抗要件)
  • 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条第1項(動産の譲渡の対抗要件の特例等)、第4条第1項(債権の譲渡の対抗要件の特例等)
  • 会社法第146条第1項(株式の質入れ)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

お問い合わせ

この記事に関連するお問い合わせは、弁護士法人M&A総合法律事務所にいつにてもお問い合わせください。ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。







    ※ いずれか一つをお選びください。「〜1000万」は500万円以上1000万円未満を指します。多忙のため「〜500万」の場合はコールバックいたしません。ご依頼意思が強い場合のみお電話ください。




    入力内容をご確認の上、
    送信ボタンを押してください

    無料診断フォーム

    こちらのフォームから、請求可能性や解決可能性に関する無料診断が可能です(ベータ版)。いくつかの質問に回答することによりご自身のご状況が分かります。ご活用ください。

    弁護士法人M&A総合法律事務所メールマガジン

    M&Aの最新情報や弁護士法人M&A総合法律事務所のセミナー情報が届きます。
    メールアドレスを入力してお申込みください。

    セミナー情報と書籍・電子書籍の謹呈

    ABOUT US
    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
    お問い合わせ 03-6435-8418