債務者が財産を他へ移した場合の詐害行為取消権の行使

勝訴判決を得て、債務者が所有する本店の土地建物を差し押さえようと登記事項証明書を取り寄せたところ、所有権は3か月前に代表者の長男が代表を務める別会社へ移転していました。原因は売買、日付は訴訟の第1回口頭弁論期日の直後です。登記された売買代金は固定資産税評価額を下回り、しかもその代金が債務者の口座に入った形跡がありません。このようなご相談を数多くお受けします。

債務者は、判決が出る前後の時期に、めぼしい財産を親族又は関係会社へ移します。移した後に残るのは、換価しても費用倒れとなる資産だけです。この状態では、いかに執行の手続を尽くしても、回収の結果は生じません。移された財産そのものを、債権者の側へ引き戻す必要があります。

結論から申し上げます。債務者が責任財産を減少させる処分をした場合、債権者は裁判所に訴えを提起してその行為を取り消すことができますが、取消しを求め得る期間には民法第426条による2年及び10年の制限があり、しかも取消しの相手方は債務者ではなく財産を受け取った側です。誰を被告とし、何を請求するかを誤ると、期間だけが経過します。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

財産が移された前か後かによって採るべき手段が変わりますので、次のとおり切り分けます。

差し押さえようとしたら、財産が既に移されていたという場面

この場面には、繰り返し現れる型があります。第一の型は、不動産の名義を親族又は同族の別会社へ移すものです。原因は売買と登記されますが、代金の授受を示す資料は存在しません。第二の型は、事業そのものを新設した会社へ移し、従業員、取引先、屋号を引き継がせるものです。旧会社には債務だけが残ります。

第三の型は、生命保険の解約返戻金、定期預金、有価証券を解約して現金化し、配偶者の口座へ振り替えるものです。第四の型は、債務者が相続で取得すべき遺産について遺産分割協議を行い、自らの取得分をゼロとするものです。いずれも、責任財産が形式上は消えたように見える点で共通しています。

民法第424条第1項は、債権者が、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができると定めています。ただし書は、その行為によって利益を受けた者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでないとしています。すなわち、債務者の側の認識と、受け取った側の認識の両方が問題となります。

取り消すことができる行為の類型

取消しの対象となるのは、責任財産を減少させる行為です。無償で譲り渡す贈与、時価を大きく下回る価額での売却、債務の免除、担保の解除がこれに当たります。共通するのは、対価が入らない、又は入る額が出ていく価値に見合わないという点です。

対象から外れる行為もあります。民法第424条第2項は、財産権を目的としない行為については取消しの規定を適用しないと定めています。婚姻、離婚、養子縁組といった身分に関する行為は、この規定により除かれます。

債権者の側にも要件があります。民法第424条第3項は、債権者はその債権が同条第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り詐害行為取消請求をすることができると定めています。財産が移された後に貸し付けた債権では、その処分を取り消すことはできません。また、同条第4項は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができないと定めています。

債務者及び受益者の認識をどのように示すのか

争点の中心は、債務者が債権者を害することを知っていたか、そして受け取った側がこれを知らなかったといえるかにあります。内心を直接に証明することはできませんので、外形的な事実の積み重ねによって示します。

債務者の側については、処分の時点で債務超過であったこと、当該財産が唯一のめぼしい資産であったこと、処分の時期が請求、催告、訴えの提起、判決の言渡しといった出来事の直後であったことを主張します。決算書、確定申告書、登記の日付、こちらが送付した書面の到達日が資料となります。

受け取った側については、債務者との関係を示します。親族であること、同一の代表者であること、本店の所在地が同一であること、役員が重なることは、事情を知らなかったという説明を否定する方向に働きます。加えて、代金の支払を示す資料が存在しないこと、価額が近隣の取引事例や固定資産税評価額と大きく乖離していることを示します。

相当の対価を得てした財産の処分の場合

相応の代金が実際に支払われている場合には、要件が加重されます。民法第424条の2は、債務者がその有する財産を処分する行為をした場合において受益者から相当の対価を取得しているときは、三つの要件のいずれにも該当する場合に限り取消しを請求することができると定めています。

第一の要件は、その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであることです。不動産が現金に変わることによって、行方をくらませやすくなる点が捉えられています。

第二の要件は、債務者がその行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について隠匿等の処分をする意思を有していたことです。第三の要件は、受益者がその行為の当時、債務者がそのような意思を有していたことを知っていたことです。したがって、時価相当の代金が現実に支払われ、その代金が他の債権者への弁済に充てられている場合には、取消しは認められにくくなります。回収の観点からは、代金の入金先の口座と、その後の出金の流れを金融機関の取引履歴によって追うことが要点となります。

特定の債権者に対する担保の供与又は弁済の場合

債務者が特定の債権者にだけ弁済し、あるいはその者のためにだけ担保を設定した場合は、責任財産の総額が減るわけではありませんので、別の規律が置かれています。民法第424条の3第1項は、債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、二つの要件のいずれにも該当する場合に限り取消しを請求することができると定めています。

その二つとは、第一に、その行為が、債務者が支払不能の時に行われたものであること、第二に、その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであることです。同項は支払不能について、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいうと定義しています。

さらに同条第2項は、その行為が債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、その行為が債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであり、かつ、通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであるときは、取消しを請求することができると定めています。期限が来ていない債務を繰り上げて弁済した場合、あるいは約定になかった担保を突然差し入れた場合が、ここに該当し得ます。

訴えの相手方、期間の制限及び請求の立て方

誤りが最も多いのが、被告の選び方です。民法第424条の7第1項は、受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴えについては受益者を、転得者に対する訴えについてはその相手方である転得者を被告とすると定めています。債務者は被告となりません。同条第2項は、債権者が訴えを提起したときは遅滞なく債務者に対して訴訟告知をしなければならないと定めています。

財産が更に第三者へ移っている場合には、民法第424条の5が適用されます。同条は、受益者に対して取消しを請求することができる場合において、受益者から転得した者があるときは、その転得者が転得の当時に債務者がした行為が債権者を害することを知っていたときに限り、その転得者に対しても請求することができると定めています。転得者が複数いる場合には、その者及びその前に転得した全ての者について、それぞれの転得の当時の認識が必要です。

期間の制限は厳格です。民法第426条は、詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは提起することができず、行為の時から10年を経過したときも同様であると定めています。登記事項証明書を取り寄せて処分の事実を知った日は、記録に残してください。請求の範囲については、民法第424条の8第1項が、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ取消しを請求することができると定めています。

取り消した後に、どのように回収へつなげるのか

取消しの判決を得ることは、目的ではなく手段です。民法第424条の6第1項は、債権者は受益者に対する詐害行為取消請求において、行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができ、受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、その価額の償還を請求することができると定めています。

不動産であれば、登記を債務者名義へ戻したうえで、その不動産に対して執行の手続を進めます。既に受益者が第三者へ転売し、返還が困難である場合には、価額の償還を求めることになります。

金銭及び動産については、直接に受け取ることができます。民法第424条の9第1項は、返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができると定めています。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しません。したがって、対象が金銭であれば、訴訟の結果がそのまま回収に結び付きます。

なぜ登記の日付を最初に確認するのか

登記の日付は、この類型の事件において最も強い資料です。理由は三つあります。第一に、期間の制限の起算点に関わるからです。行為の時から10年という制限は、登記された原因の日付を基準として判断されますので、10年を超えている財産については、他の手段を検討しなければなりません。

第二に、認識を推認させるからです。催告書が到達した週、訴えが提起された月、判決が言い渡された翌月といった時期に処分がされていれば、その時期的な接着そのものが、害することを知っていたことを示す事実として働きます。

第三に、対象を選別できるからです。処分された財産が複数ある場合、全てについて訴えを提起すると費用と時間がかさみます。登記の日付と、こちらの債権の発生時期とを並べれば、民法第424条第3項の要件を満たす財産だけを選び出すことができます。着手の順序として、まず登記事項証明書を全て取得し、日付を時系列に並べる作業を行ってください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、不動産、商業、動産譲渡及び債権譲渡の各登記の調査、処分の時系列の整理、債務超過を示す資料の収集、被告とすべき受益者又は転得者の特定、訴状の作成と提起、債務者に対する訴訟告知、そして取消し後の登記の回復及び執行への接続です。処分された財産の散逸を防ぐため、訴えの提起と併せて保全の申立てを行う場合もあります。

依頼の時期は、登記事項証明書によって処分の事実を知った時点です。民法第426条の2年の期間は、この時点から進行します。財産が更に転売されますと、転得者に対する要件が加重されますので、着手が早いほど、選ぶことのできる相手方は多くなります。

いま確認していただきたいこと

債務者が所有していた、又は所有している可能性のある不動産について、登記事項証明書を全て取得してください。全部事項証明書とし、閉鎖された事項も含む形で請求します。所有権の移転の日付、原因、移転先の氏名又は名称、そして抵当権の設定と抹消の日付を、一覧表にしてください。

次に、こちらの債権が発生した日を確定してください。契約書の日付、初回の貸付けの実行日、請求書の発行日のいずれによるかを整理し、処分の日付と前後関係を対照します。債権の発生が処分より後であれば、その処分は対象から外れます。

最後に、移転先とされている個人又は法人について、商業登記事項証明書を取得し、代表者、役員、本店の所在地、設立の年月日を確認してください。債務者と人的又は場所的に重なる点があれば、その一つ一つが認識を示す事実となります。処分の事実を知った日は、証明書の交付年月日によって記録に残ります。

よくあるご質問

債務者を被告とすればよいのではありませんか

被告となるのは、財産を受け取った受益者又は転得者です。債務者は被告ではありません。もっとも、訴えを提起したときは、遅滞なく債務者に対して訴訟告知をしなければならないと定められています。

時価相当の代金で売られている場合でも取り消せますか

加重された要件を満たす場合に限られます。処分によって隠匿等のおそれが現に生じたこと、債務者に隠匿等の意思があったこと、受益者がその意思を知っていたことの三つが必要です。代金が他の債権者への弁済に充てられている場合には、認められにくくなります。

債務者が親族と行った遺産分割は対象となりますか

遺産分割の協議は財産権を目的とする行為ですので、対象となり得ます。これに対し、身分に関する行為は、財産権を目的としない行為として除かれます。取得分をゼロとした協議の内容と、その時期を確認してください。

取り消せば財産はこちらのものになりますか

なりません。不動産であれば債務者の名義に戻り、そのうえで執行の手続を経ることになります。ただし、金銭及び動産については、自己に対する支払又は引渡しを求めることができます。

10年より前の処分はどうなりますか

行為の時から10年を経過したときは、訴えを提起することができません。この場合には、残された財産の調査、保証人に対する請求、あるいは別の法的な構成を検討することになります。

おわりに

財産が移された後であっても、回収の道は閉ざされていません。登記の日付を時系列に並べ、こちらの債権の発生時期と対照し、受け取った側の関係性を示す資料を揃えること。この作業を2年の期間が経過する前に終えれば、移された財産を引き戻すことができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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出典

  • 民法第424条第1項から第4項まで(詐害行為取消請求)
  • 民法第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
  • 民法第424条の3第1項(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
  • 民法第424条の5(転得者に対する詐害行為取消請求)
  • 民法第424条の6第1項(財産の返還又は価額の償還の請求)
  • 民法第424条の7第1項(被告及び訴訟告知)
  • 民法第424条の8第1項(詐害行為の取消しの範囲)
  • 民法第424条の9第1項(債権者への支払又は引渡し)
  • 民法第426条(詐害行為取消権の期間の制限)

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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