業務委託の報酬が支払われず契約不適合を主張された場合の反論

基幹システムの改修を受託し、8か月をかけて納品しました。検収の期限は納品から2週間と定められていましたが、期限を過ぎても検収書は届かず、督促を重ねた末に届いたのは、画面の表示が仕様と異なる、応答が遅い、追加で依頼した機能が入っていないという指摘の一覧でした。報酬の支払を求めると、契約の内容に適合していないので支払えないという回答が返ってきます。このようなご相談を数多くお受けします。

報酬の請求に対して仕事の内容が問題とされるのは、支払う側にとって最も費用のかからない対抗の方法だからです。品質の議論に持ち込めば、支払は先送りされ、その間に交渉によって減額を引き出すことができます。受託した側は、既に人件費を投入し終えていますので、時間の経過による負担は一方的に重くなります。

結論から申し上げます。契約不適合の主張に対する反論は、まず契約が請負であるか委任であるかを確定し、次に仕事の完成の有無と、不適合を知った時からの通知の期間を検討するという順序で組み立てます。民法第637条第1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、その不適合を理由として履行の追完の請求等をすることができないと定めています。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

支払が止まる理由によって反論の組み立てが変わりますので、次のとおり切り分けます。

支払を求めると、決まって仕事の内容を問題とされます

指摘には型があります。第一の型は、仕様書に書かれていない事項を当然に含まれるはずだと主張するものです。第二の型は、納品後に追加で依頼した事項が反映されていないという主張です。第三の型は、性能に関する抽象的な不満であり、遅い、使いにくい、想定と違うという言い方が用いられます。

共通する特徴は、指摘の時期が支払の期日に近接していることと、内容が定量的でないことです。仕様書に数値による基準が置かれていない項目について、後から水準を持ち出す構図になっています。

反論の出発点は、契約の内容として合意された範囲を確定することです。合意の範囲を超える要求は、契約不適合の問題ではなく、新たな発注の問題です。まず提案書、見積書、仕様書、注文書、議事録を時系列に並べ、どこまでが報酬の対価とされていたかを特定します。

請負であるか、委任であるかで結論が変わります

契約の題名が業務委託契約書であっても、法的な性質は内容によって決まります。民法第632条は、請負が当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することによって効力を生ずると定めています。これに対し、民法第643条は、委任が当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずると定めています。

この区別が決定的であるのは、報酬の発生条件が異なるからです。請負では仕事の完成が報酬の請求の前提となります。準委任と解される契約では、事務を処理したこと自体に対して報酬が発生し、成果物の出来映えは発生要件ではありません。

区別の手掛かりは、契約書の文言だけではありません。成果物の引渡しが予定されているか、検収の手続が定められているか、報酬が月額で定められているか一括で定められているか、作業の場所と時間が指定されているか、といった事情から判断します。月額の人月単価で定められ、毎月の作業報告書の提出が求められている契約は準委任として構成されており、この場合には完成の有無を争う必要がありません。なお、民法第648条の2第1項は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬はその成果の引渡しと同時に支払わなければならないと定めています。

仕事が完成しているかどうかの判断

請負であると整理される場合、次の争点は完成の有無です。判断は、当初に予定された工程を全て終えたかどうかによります。全ての工程を終えていれば、残る不具合は完成後の契約不適合の問題として扱われ、報酬の請求そのものは妨げられません。

報酬の支払時期については、民法第633条が、報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないと定めています。納品を終えた時点で、請求の要件は満たされます。

工程の途中で中止された場合には、民法第634条が適用されます。同条は、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき、又は請負が仕事の完成前に解除されたときにおいて、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、利益の割合に応じて報酬を請求することができると定めています。準委任と整理される場合には、民法第648条第3項が、委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、又は委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができると定めています。

契約不適合の主張に対して確認する資料

相手方の指摘を受けたら、その一つ一つについて三点を確認します。第一に、その事項が契約の内容に含まれていたか。第二に、含まれていたとして、実際に適合していないか。第三に、適合していないとして、その原因はどちらにあるか。

第一の点は、仕様書、要件定義書、見積書の内訳、提案の際の資料によって判断します。記載がない機能について不足を主張された場合には、契約の範囲外であることを示せば足ります。

第三の点については、民法第636条が重要です。同条は、請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したときは、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないと定めています。ただし書は、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでないとしています。相手方が指定した基盤、提供されたデータ、担当者の指示に起因する不具合であれば、この規定によって反論できます。指示の事実は、電子メールや課題管理表に残ります。

追完の請求、報酬の減額及び解除の順序

相手方が採り得る手段には順序があります。まず履行の追完を請求し、行われない場合に報酬の減額を請求し、要件を満たす場合に解除へ進みます。いきなり全額の支払を拒むことは、この順序を飛ばした主張です。

期間の制限も強い反論となります。民法第637条第1項は、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者はその不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないと定めています。同条第2項は、目的物を引き渡した時において請負人が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この制限を適用しないとしています。相手方が不具合を認識していた時期を、障害報告や打合せの記録によって特定してください。

また、相手方が一方的に契約を打ち切った場合には、民法第641条が働きます。同条は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約の解除をすることができると定めています。完成前の解除であっても注文者は賠償の義務を負いますので、投入済みの費用を請求することができます。

仕様の変更が口頭で行われていた場合

最も争いが生ずるのは、作業の途中で口頭により追加や変更が行われ、書面が作られていない場合です。相手方は、追加の依頼はしていない、当初の範囲に含まれていたはずだと主張します。

反論の資料は、日々のやり取りの中に残っています。電子メール、業務用の連絡手段の履歴、課題管理表の更新記録、打合せの議事録、見積りを提示した際の返信がこれに当たります。相手方の担当者が変更を了承した旨の一文があれば、それが合意の証拠となります。

あわせて確認すべきは、契約書における変更の手続に関する条項です。変更は書面によるものとするという定めがある場合、口頭の追加は契約の変更として認められにくくなります。もっとも、その定めがあっても、相手方が追加作業の成果を現に利用しているのであれば、別途の合意が成立していたという構成を採ることができます。今後は、追加の依頼を受けた当日に、作業の内容、工数、追加の報酬額、納期を記載した電子メールを送り、返信を得る運用を定着させてください。

下請代金の支払を遅らせることができない場合

当事者の規模によっては、契約の解釈とは別に、法律上の支払期日の規制が及びます。製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律は、資本金の額又は出資の総額及び常時使用する従業員の数によって委託事業者と中小受託事業者とを区分しています。

同法第3条第1項は、製造委託等代金の支払期日は、委託事業者が中小受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、委託事業者が中小受託事業者の給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならないと定めています。検収が終わらないことを理由として60日を超えて支払を先送りすることは、この規定に反します。

さらに同法第5条第1項第2号は、委託事業者が、製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないことをしてはならないと定めています。適用の対象となる取引であれば、支払わない理由を品質に求めても、この規制を免れることはできません。自社が中小受託事業者に当たるかどうかは、双方の資本金の額と従業員の数、そして委託の類型によって決まりますので、相手方の商業登記事項証明書によって確認してください。

なぜ検収の記録が残っているかどうかで決着がつくのか

検収は、納品された成果物が契約の内容に適合していることを相手方が確認する手続です。この記録の有無によって、その後の主張の重みが変わります。

検収書が交付されている場合、相手方は、いったん適合を確認したうえで後から不適合を主張することになります。検収の時点では発見できなかった事情を説明しなければならず、主張の負担は相手方に移ります。

検収書が交付されていない場合でも、契約書に、一定の期間内に異議がないときは検収に合格したものとみなすという定めが置かれていれば、同様の効果が生じます。この定めはみなし検収と呼ばれ、支払を先送りする手法に対する最も有効な備えです。定めがない場合には、納品の事実と、相手方が成果物を現に使用している事実を示すことになります。運用を開始し、業務に用いているという事実は、適合を認めた行動として評価されます。稼働の記録や相手方が対外的に公表した資料が、その裏付けとなります。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、契約の法的性質の確定、仕様書と成果物の対照、指摘の一覧に対する項目ごとの反論の作成、通知の期間及び指図に起因する不適合に関する主張の整理、支払の督促と交渉、支払期日の規制の適用の有無の判断、そして訴訟又は調停による請求です。技術的な争点については、開発の記録を証拠として整理する作業が中心となります。

依頼の時期は、検収の期限を過ぎても検収書が交付されない時点、又は指摘の一覧が届いた時点です。この段階であれば、回答書を後の主張と矛盾しない形で作成することができます。担当者どうしのやり取りの中で、不適合を認める趣旨に読める返信を送ってしまいますと、後の反論が困難になります。

いま確認していただきたいこと

契約書を取り出し、報酬の額と支払期日、検収の手続と期限、みなし検収の定め、契約不適合に関する定め、変更の手続、解除の事由の6点を確認してください。検収の期限が定められているのに検収書が交付されていない場合には、その事実自体が反論の材料となります。

次に、仕様書と、届いた指摘の一覧とを項目ごとに対照した表を作成してください。列は、指摘の内容、仕様書における根拠の有無、事実関係、原因の所在、こちらの回答の5つとします。この表が、そのまま回答書の骨格となります。

最後に、開発の期間中のやり取りを時系列で抽出してください。追加の依頼、仕様の変更、相手方からの指図、障害の報告と対応の記録が対象です。成果物の使用の開始日が分かる資料も保存してください。

よくあるご質問

検収書がないと報酬を請求できませんか

請求できます。報酬の請求の要件は仕事の完成と引渡しであり、検収書の交付は要件ではありません。契約書にみなし検収の定めがあれば期間の経過によって合格が擬制され、定めがない場合でも、納品の事実と使用の事実によって示すことができます。

不具合が残っている場合、全額の請求はできませんか

工程を全て終えているのであれば、残る不具合は完成後の契約不適合の問題として扱われますので、報酬の請求は妨げられません。相手方は追完を請求し、それが行われない場合に減額を請求するという順序をたどることになります。

相手方が指定した環境が原因である場合はどうなりますか

注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合については、注文者は追完の請求等をすることができないと定められています。指図の内容と時期が記録に残っているかを確認してください。

途中で契約を打ち切られました。何を請求できますか

可分な部分の給付によって相手方が利益を受けているときは、その部分を完成とみなして割合に応じた報酬を請求することができます。完成前の解除であれば、注文者は損害を賠償する義務を負いますので、投入済みの費用も対象となります。

口頭で頼まれた追加作業の分は諦めるほかありませんか

諦める必要はありません。電子メールや課題管理表に依頼の記録が残っていれば、合意の証拠となります。相手方がその成果を現に利用している場合には、その事実も合意を推認させる事情となります。

おわりに

品質の議論は、支払を先送りするために持ち出されることが少なくありません。契約の性質を確定し、完成と引渡しの事実を示し、指摘の一つ一つを仕様書と対照して回答すること。この三つを順序どおりに進めれば、議論は品質の問題から支払の問題へ戻ります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

業務委託の報酬の請求と契約不適合の主張に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 民法第632条(請負)、第633条(報酬の支払時期)、第634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)、第636条(請負人の担保責任の制限)、第637条第1項(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)、第641条(注文者による契約の解除)
  • 民法第643条(委任)、第648条第3項(受任者の報酬)、第648条の2第1項(成果等に対する報酬)
  • 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号。旧称・下請代金支払遅延等防止法)第3条第1項(製造委託等代金の支払期日)、第5条第1項第2号(委託事業者の遵守事項)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

お問い合わせ

この記事に関連するお問い合わせは、弁護士法人M&A総合法律事務所にいつにてもお問い合わせください。ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。







    ※ いずれか一つをお選びください。「〜1000万」は500万円以上1000万円未満を指します。多忙のため「〜500万」の場合はコールバックいたしません。ご依頼意思が強い場合のみお電話ください。




    入力内容をご確認の上、
    送信ボタンを押してください

    無料診断フォーム

    こちらのフォームから、請求可能性や解決可能性に関する無料診断が可能です(ベータ版)。いくつかの質問に回答することによりご自身のご状況が分かります。ご活用ください。

    弁護士法人M&A総合法律事務所メールマガジン

    M&Aの最新情報や弁護士法人M&A総合法律事務所のセミナー情報が届きます。
    メールアドレスを入力してお申込みください。

    セミナー情報と書籍・電子書籍の謹呈

    ABOUT US
    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
    お問い合わせ 03-6435-8418