取引先からお金の支払いが滞っている場合、債権を回収する方法はいくつか存在します。その中でも動産執行は、債務者の自宅やお店に立ち入ったうえで、そこで見つけた財産を売ることで債権回収にあてるダイナミックな方法です。今回は、この動産執行の概要から具体的な流れなどについて解説します。
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動産執行とは?
まずは、動産執行がどのようなものなのか、その概要を把握しておきましょう。動産執行とは、売掛金や家賃といった債権を回収するための方法の1つです。
お金を支払わない債務者の自宅やお店に直接足を運び、執行官と呼ばれる人がそこで債権回収につながる財産がないか探します。もし何かしらの財産があればそれを売却して債権の回収にあてるというのが大まかな内容です。動産執行では、禁止財産以外は基本的にどんな動産も回収可能です。いくらお金が支払えない債務者でも何かしらの動産は持っていると考えられるので、少しでも債権回収を行うことができます。
ちなみに動産とは、動かせるものだと考えてください。家や土地などの動かせないものを不動産と呼んでいることを考えると理解しやすいかと思います。動かせるものとなると、その範囲はとても広く、自動車や家電、家具、ジュエリー、ハンカチ、現金などありとあらゆるものが動産に該当します。ただし、これらの動産全てが動産執行で差押えできるわけではないので注意してください。
債権回収をする方法には動産執行の他に、不動産執行や債権執行がありますが、動産執行は債権回収の中でも最後の手段という位置付けになっています。そのため、利用件数自体は多くありませんが、うまく利用すれば、大きな債権の回収も可能となるはずです。
動産執行の前提条件
動産執行は、裁判が終わった後に行う手続きです。そのため、動産執行を行うためには、債権者が支払いを行わない債務者に対して裁判を起こし、勝訴(支払いを命じる)判決が出ていることが大前提となります。
ただし、裁判を行なっていなくても、債務者と債権者との間で「強制執行認諾文言付の公正証書」という書類を作成していれば、裁判後でなくても動産執行が可能です。
ここで登場する公正証書は公の立場で文書を作る権限を持っている人が作る文書です。文書を作る権限を持っている人のことを公証人と言います。公証人には弁護士や裁判官のような、法律関連の仕事をしてきた人の中から選ばれます。
そして、この公証人が作る公正証書の中でも、債務者が債務を履行しなかった時に、すぐに強制執行を受けることを承諾する旨の記載があるものを「強制執行認諾文言付の公正証書」と言います。
簡単にいうと「支払いをしなかった時に動産執行を強制的に受けても文句は言いません」といったニュアンスの書類だと考えてください。
動産執行が行えるケース
債権回収を行うために実施する動産執行ですが、行えるのは以下の3つのケースの場合です。
・債権者が裁判で勝訴して、債務者に支払いを命じる判決が出ているにも関わらず、債務者が支払いをしないケース
・裁判で債権者と債務者の間で金員を支払う旨の和解が成立しているにも関わらず、債務者が支払いをしないケース
・債権者と債務者の間に「強制執行認諾文言付の公正証書」が作成されているケース
先ほども説明しているように、動産執行は裁判を経ているか、「強制執行認諾文言付の公正証書」があるか、どちらかのケースでしか行えないと覚えておきましょう。債務があるからといって、裁判も経ず、「強制執行認諾文言付の公正証書」もない状態で勝手に動産執行をするとかえって罪に問われる可能性があります。
動産執行で対象となる財産
先ほど動産にはどのようなものがあるのか、一例を紹介しました。実際に動産執行で差押えができる財産は以下のようなものがあります。
・現金
・各種機械
・各種商品(お店の場合)
・時計
・絵画
・宝石
・ブランドもののバッグ
など
上記はあくまでも一例ですが、自宅や店舗にあるものを差押えすることができるのが理解できるかと思います。一方で、以下の財産は動産執行でも差押えをすることができません。
・債務者の生活に欠かせないもの(衣類や寝具、畳、家具など)
・現金(66万円まで)
・債務者が仕事をする際に使用する器具や備品
債務者にも生活があり、お金を稼がなければいけないため、債務者を守るという観点からも上記の財産は差押え不可となっています。
ちなみに、先ほど自動車も動産だと説明しましたが、自動車を差押える場合は、動産執行ではなく、自動車執行という異なる手続きを行うことになるので注意してください。
動産執行の流れ
ここからは、動産執行の手続きを行う際の具体的な流れについて解説します。動産執行は以下の流れで行います。
・申立書を裁判所の執行官に提出
・執行官と動産執行の日程を調整する
・執行当日に債務者の自宅やお店に行く
・債務者の自宅やお店の中を調べ、動産を差し押さえる
・持ち帰った動産を売却し債権回収する
それぞれについて具体的に確認していきましょう。
申立書を裁判所の執行官に提出
動産執行を行うにあたっては、まず裁判所に「強制執行申立書」という申立書を提出する必要があります。提出先は執行官と呼ばれる動産執行の強制執行を担当する職員です。申立書提出の際は場合によって、住民票や戸籍謄本などが必要になるケースもあります。また、申し立てを弁護士に依頼する場合は委任状も用意するようにしましょう。
執行官と動産執行の日程を調整する
申立書を提出すると、執行官から動産執行に関する連絡が入ります。ここでは、執行の具体的な日時を決定します。なお、日時が決まったら、当日までに、以下の準備も行うようにしましょう。
・開錠業者への謝礼
・車やトラックの手配
動産執行をしようとしても、債務者が自宅やお店の鍵を開けない可能性もゼロではありません。そういった時に備えて、動産執行には鍵屋を同行させ、必要に応じて強制的に開錠してもらいます。この鍵屋への謝礼を債権者側で用意することになるので、忘れずに準備しておきましょう。ちなみに、鍵屋の手配は執行官が行なってくれるのが一般的で、謝礼に関しても、執行官経由で教えてもらえます。
車やトラックは、重量物の動産を差押えた際に運搬できるように手配しておきます。こちらも債権者側で準備する必要があります。
執行当日に債務者の自宅やお店に行く
動産執行の当日、あらかじめ決めておいた場所に集合して執行官と合流したら、債務者の自宅やお店に乗り込みます。ここで注意しなければいけないのが、自宅などに実際に乗り込めるのは、執行官のみということです。債権者本人や弁護士などは立ち入りできないので注意してください。
債務者の自宅やお店の中を調べ、動産を差し押さえる
執行官が債務者の自宅やお店を調べて、現金や財産を発見した場合、差押えて持ち帰ることができます。執行官が財産を見つけてくるので、債権者はどれを債権回収にあてるのか指定するようにしましょう。差押えた財産は、必ずしも持ち帰る必要はありませんが、債務者の近くに置いておくと、売却してしまう恐れがあるので、持ち帰ったほうがいいでしょう。
ちなみに、財産の差し押さえ以外にも、執行官が債務者を外に連れてきて話し合いをするケースが多くなっています。
持ち帰った動産を売却し債権回収する
動産執行が終わると、執行官から差押えた財産の売却期日が決められます。債権者は、この期日までに、差押えた財産の代金を決めて売却する必要があります。財産の売却方法はいかの2通りです。
専門業者に購入してもらう
例えば、骨董品や絵画、高級腕時計などを差押えた場合、専門業者にきてもらって買い取ってもらうことができます。債権者はこの買取によって得たお金を債権にあてます。
債権者が自ら購入する
差押えたものを債権者自らが購入することも可能です。ただし、この場合、債権と購入代金を相殺する形になるので、債権者が費用負担をすることはありません。もちろん、その後債権者が転売しても構いません。
動産執行に必要な書類
動産執行の申立にあたっては以下の書類が必要になります。
・債務名義の正本
・送達証明書
・資格証明書
・委任状(弁護士に依頼する場合)
債務名義の正本は、状況によって以下の通り若干内容が異なります。
・債務者が裁判で敗訴しているにも関わらず、支払いに応じない場合:裁判所から交付される「判決正本」が債務名義の正本になる
・債務者と債権者との間で金銭を支払う旨の和解が成立しているにも関わらず、支払いに応じない場合:裁判所が作成する「和解調書」の正本が債務名義の正本になる
・債務者と債権者との間で「強制執行認諾文言付の公正証書」を作成している場合:「強制執行認諾文言付の公正証書」の正本が債務名義の正本になる
このように、状況によって債務名義の正本が変わってくるので注意してください。
次に送達証明書についてです。これは、債務名義の正本が債務者に送られていることを証明する文書のことです。裁判所もしくは公証役場で発行してもらえます。
資格証明書とは、債権者か債務者の一方、もしくは両方が法人の場合に必要となるもので「登記事項証明書」や「代表者事項証明書」が該当します。こちらは、法務局で発行してもらえます。
そして、手続きを弁護士に依頼する場合は、委任状も用意するようにしましょう。
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動産執行の費用
動産執行を行うにあたっては、いくつかの費用が発生します。主な費用項目としては「予納金」と「開錠業者への謝礼」、「弁護士費用」が挙げられます。
予納金とは、執行官に依頼するための費用だと考えてください。だいたい3万円〜4万円を裁判所に預け、その中から執行官の費用が支払われます。もし、費用が余ったら債権者に変換されます。
開錠業者への謝礼は先ほども説明しているように、債務者が鍵を開けない時に業者の力を借りることになるため、その際の謝礼金です。相場は8,000円〜30,000円ほどと幅広くなっています。
動産執行は弁護士なしでも行うことはできますが、実際には専門知識や複雑な手続きなどがあり、弁護士が必要となるケースが少なくありません。そのため、動産執行を弁護士に依頼する場合、弁護士費用が必要になります。費用は10万円程度になるのが一般的です。
執行不能について
動産執行を行なったからといって、必ずしも再建が回収できるとは限りません。中には、動産執行ができない、「執行不能」のケースも出てくるでしょう。
執行不能とはその名の通り、動産執行ができないことです。例えば、債務者の自宅やお店を調べても財産が見つからないケースなどが該当します。また、財産があったとしても、他人のものがたまたま債務者の手元にあったというだけでは、差押えはできません。このように、何も成果が得られない可能性もあることを認識しておきましょう。
動産執行を行うかどうかの検討ポイント
動産執行が失敗に終わる可能性があることに加え、費用もかかることを考慮すると、実際に動産執行を行うかどうか検討する必要があります。
ただ、動産執行を行なって財産が見つからなくても、貯金通帳が見つかり、預金があることが発覚するケースもあります。そうなると、預金情報をもとに別の強制執行方法で債権を回収できるかもしれません。このように、動産執行を行うかどうかは、強制執行を行うことで、どういった情報や財産が得られるか、といった点を軸にして考えるといいでしょう。
動産執行は失敗する可能性も高い
動産執行は決して簡単に債権が回収できる方法ではありません。そもそも支払いが滞っている人は、お金に余裕がないため、強制執行の前に動産を売り払っている可能性もあります。また、仮に何かしらの動産があったとしても、必ずしも価値があるとは限りません。例えば、家電などは劣化するため、購入時点から時間が経っているものはかなり価値が下がってしまいます。そのため、差押えをするのは現金にして5,000円以上になるもののみとするのが基本です。
動産執行のメリット・デメリット
最後に動産執行のメリットとデメリットについて解説します。
動産執行のメリット
動産執行はいくつかある強制執行の中でも、比較的手続きが簡単で、費用も低額です。
また、執行官が実際に自分のもとにやってきて調査をするということは、債務者に対してはかなりのプレッシャーを与えることができます。そのため、うまくいけば動産執行自体では成果が得られなくても支払いに応じてくれる可能性があります。
動産執行のデメリット
一方のデメリットとしては、執行官が自宅やお店などに足を踏み入れなければ、実際に財産があるのかどうかが、わからない点があげられます。つまり、やってみないとわからないということです。うまくいけば大きな債権回収が実現しますが、成果がゼロで終わる可能性も十分にあります。
動産執行は慎重に行おう
今回は、動産執行の概要から流れ、申立の際に必要な書類などについて解説しました。動産執行は、数ある強制執行の中でも最終手段と言えるものです。闇雲に行うと成果が得られずに終わる可能性もあるので、行う際は必ず十分に検討してからにしましょう。また、その際弁護士の力を借りる方がよりスムーズに手続きを行うことができるので、オススメです。
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